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瑞々しい香りが、ふわりと鼻孔をくすぐる。
「ねー、りっちゃん。書くもの貸して?」
私の席までやって来て、ねだるように首を傾ける真白。その角度は今日も完璧で、また、私の心を魅了する。
「筆箱忘れたの?」
「うん。忘れちゃった」
「別にいいけど……それなら隣の席の子に借りればいいのに」
「何で? 僕の隣、どっちも女の子なんだけど」
「あっ……」
私は咄嗟に手で口を覆ったものの、一度流れてしまった言葉は消えない。
近くに一人くらい男子がいると思っての発言だったけど、だったらきちんと『近くの席の子』って言うべきだった。
「りっちゃんって酷いこと言うんだね。僕に、他の女の子の私物を借りろだなんて」
「違っ……」
「違うって何が? 今そう言ったじゃん」
睨みつけてはこない静かな双眸に、ほんの少しの居心地の悪さを抱えながらも、私は思わず見惚れてしまった。
高校生になると、真白は更に女の子から注目を集めるようになった。学ランからブレザーに変わっても、睫毛の長い綺麗な形の瞳や、雪原を思わせる白磁の肌、全体の線の細さはそのままで、中性的な色気が妙に増していた。
でもやっぱり、真白は女の子の甘ったるい声には耳を貸さない。律が別のクラスになってしまったこともあって、ほとんどいつも私の傍にいる。
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