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遠くで鳴る呼び鈴の音が、それまで見ていた景色を一瞬で掻き消した。
目を開くと、透けるような真っ白な素肌が、私と隣り合っていた。柔らかい体温が、全身から醸す清らかな香りと共に、私を包んでくれている。
温度の伝う柔肌の上に人差し指を滑らせた。
もしかして、私はまだ、ふわふわとした夢の世界にいるのかもしれない。いやらしく這う自分の手を、私はただぼんやりと眺める。
「……ふふ。くすぐったいよ……」
頭上から細い声が降ってきた。
私は途端に指を止める。
「ご、ごめん……起こしちゃった……?」
「ううん。起きてたよ……」
彼の方も、まだ意識がはっきりと現実世界に戻ってきてるわけではないらしくて、私と覇気のないやり取りを交わす。
儚げな声とは裏腹に、私を抱く腕の力は強まった。直接触れ合う肌と肌。外で抱き合う時よりも、ずっと近く、深く、彼を感じられるような気がする。
忘れていた呼び鈴の音が、もう一度響いた。
私は毛布から這い出ようとしたけれど、強い力に押さえつけられて、また布団の中に戻された。
「いいよ。僕が出るから」
私に優しい口付けを残して、散らばっていた服を着ながら、彼の方が部屋を後にする。
鍵と扉を開ける、重厚な金属音。
「雨谷真白さんのお宅ですか?」
「はい」
「荷物が届いておりますので、ここにハンコかサイン、お願いします」
「ああ、はい」
ふかふかな感触に覆われていた私は、玄関先での会話を耳に流してる内に、また心地良い眠りに誘われた。
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