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費用も時間もないから式は挙げてない。大学生になったばかりの私達には、一緒に部屋を借りるのが精一杯だった。
もちろん、未だにお互いの親には、主に金銭的に支えてもらってる面も多い。社会人になってから、その恩は必ず返すつもりだった。
「次は、律と弥生ちゃんの番だね」
『俺らはまだしねーよ。俺は社会に出て、自立して、ちゃんと自分の手で養えるようになってから、最高の形で弥生を迎えに行くんだからな。親の脛かじりまくってるお前らと一緒にすんな』
突っかかるような言い方に少しむっとして、反論に出ようとしたけど、何も言い返せなかった。律の言い分は、真っ当だから。
それに、自分と恋人の将来に関しても、地に足の付いた考え方をする。こういう部分は、我が兄ながら格好いい、と素直に尊敬できた。
『しかし、あの時の言葉が現実になるとはなぁ』
「あの時……? 何?」
『ほら、真白ってさ、基本人見知りするじゃん。俺らとはすんなり仲良くなったけど、普段は自分から他人に近付くタイプじゃないだろ?』
「うん……昔からそうだよね」
『でさー、俺、仲良くなってすぐくらいの頃、真白に言われたことがあるんだよ。『大人になったら僕と結婚して、ずっと傍にいてほしい』って』
「えっ……」
私の知らない兄の記憶に、胸が騒いだ。
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