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製菓部の部室は、部室棟の一番奥にある。
部室にはキッチン、調理器具が一通り備え付けられてある。
部室というより、調理室がまるまるあるといった感じだ。
隣には調理部の部室が同じようにある。
ここ、私立城ヶ崎学園は、坊っちゃん、嬢ちゃんが数多く通う名門でもあり、部費などに賄う費用も莫大なのである。
私の家は金持ちでも名家でもないが、奨学金というありがたい制度のおかげで通う事が出来ている。
才能ある者を育てるという校風のもと、奨学金は全額返済しなくても良いという、たいへん太っ腹な学校故に、そこにも引かれた。
部室棟の並ぶ廊下を歩いていると、バスケ部の部室から急に誰かが飛び出して来た。
咄嗟の事に避けられず、私とその相手は、向かい合わせに尻餅をついた。
「だいじょう・・・」
大丈夫?と聞こうとして、私は息を飲んだ。
女の私でも見とれるほどの美少女が目の前に居た。
小柄で華奢な身体に、ショートカットの髪形がよく似合っている。
「バカヤロー!どこ見て歩いてんだ!!」
!?
まさか、この子の口からこんな汚い言葉が出てくるわけないよな。
他に誰か・・・。
私は周りをキョロキョロ見渡した。
「お前に言ってんだよ。この、でか女!」
・・・やはり、この子の口から放たれているらしい。
しかし、私の心は驚きより、嬉しさが込み上げていた。
そう、怒りじゃなく嬉しさだ。
初めてなのだ。
初対面の相手に女と認識されたのは。
いや、浸っている場合ではないな。
見たところ1年だろう。ここは先輩がビシーッと。
「君、飛び出して来たのはそっちでしょ。それに、女の子がそんな汚い言葉使っちゃ駄目だよ。」
やんわりたしなめると、彼女にジロリと睨まれた。
怒ってらっしゃる。
私、何か余計な事言ったかしら?
彼女は、ワナワナ奮えながら一言。
「俺は男だ!」
えっ?今なんて?
「でも、確かに飛び出したのは俺だな。悪かった。部活に遅れそうで、急いでたんだ。」
そう言って立ち上がると、彼女は、じゃなかった彼は私に手を差し伸べた。
その手を取って立ち上がると、彼を見下ろす形になった。
彼は私を見上げて一言、
「やっぱりムカつくな。」
そして廊下の壁時計を見ると、
「やべ、マジで遅刻だ!」
そう言って走り去って行った。
嵐のような子だな。
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