救いの手

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目を凝らしてジッと声がした辺りを凝視した。 すると数秒経った頃、一人の人影が屋上の地面に黒い影を伸ばしていく。 やっぱり誰かいたんだ……っとホッとするけれど、今までの独り言や盛大な溜息を聞かれたのかと思うと、恥ずかしくて熱くなる顔は隠しきれなかった。 そして革靴の靴音を数歩鳴らして現れたのは、線の細いスラッとした平均身長の男性だった。 鮮やかなブルーのスーツが似合うのは、逞しい男性というよりも女性みたいな華奢な体型だからだろう。 ネクタイさえも細身の紺のストライプで、それが彼の存在をさらに魅惑的に見せていた。 体型の次にその男性の顔に視線を移す。 その表情を見て息が止まった。 だって彼の表情ってば、まるで少年のように屈託のない微笑みを初対面の私に向けてくれていて、まるで昔からの知り合いにあったかのような愛嬌ある口元で笑ってくれているんだから。
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