救いの手

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少し癖っ毛なのか猫のようにふわふわと柔らかい髪は、屋根のない屋上でダイレクトに吹く風に吹かれて気持ちよさそうに揺れている。 面長の顔だちに収まっている垂れ目は、私を見て微笑んでいるせいかさらに目尻が垂れていて、それがとても可愛らしかった。 ……初対面の男性に可愛いだなんて思っていたら、それは失礼だろう。 複雑な表情に歪んでいる私にお構いなしにその男性はゆっくりと距離を詰めてくる。 和やかに緩んだ表情のまま、私と人一人分の距離を置いて近寄ってきた。 「……立ち聞きしてしまってゴメンね」 初対面だというのに砕けた口調で私に問いかけてくる、この人。 もしかして私、彼に会ったことがあるのだろうか? いや、それとも新手のナンパ? でもこんなオフィスしか入っていないビルの、しかも屋上で? それはないだろうっと私はかぶりを振る。
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