一章 逃亡。

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▽ 本隊と別れてからどれくらい時間が経っただろうか。太陽の位置がわからないため大雑把な時間でさえ分からない。 相変わらずジメジメとした肌触りが変わることはなく、目的地まで黙々と進んでいた。 「おい! 止まれ!」 突然下水道内に響いたその声に部隊の全員がすぐさま反応する。相手が光源の類を持っていないため気づくのが遅れた。 姿は見えないが聞こえてきた方向から考えると十メートルほど先にある曲がり角だ。 不意打ちをかけてこないあたり、こちらが何者かわかっていないのだろうか。 「何者だ! 所属を名乗れ!」 この聞き方。軍人だ。ギルドに所属している者であれば普通“所属”という聞き方はしてこない。どこのギルドの者だ、とストレートに聞いてくる。 音からして人数は二十人程度か。こちらからも敵なのか味方なのか分からない。ここで時間を食う訳にはいかない。 「デトラの序列一位、エースだ! そちらの所属も確認したい!」 「デトラだと!?」 こちらの返事に対して向こうの部隊がざわつく。すると曲がり角から部隊長らしき人物が姿を現した。 「デトラはアーダント側に雇われたと聞いた。ここで死ね」 部隊長らしき人物が抜刀し、俺の方に向かってくる。口ぶりから察するにこの部隊の所属はファントだ。裏切りについて聞いていないのか? 「おいちょっと待て! 上から聞いていないのか! 俺達はファント側に寝返ったんだぞ!」 「そんなハッタリが通じると思っているのかぁ!」 部隊長は俺の言葉を聞かずに斬りかかってくる。上段、下段、中段と連撃を浴びせてくる。向こうの部隊の隊員もどうやらやる気のようだ。やるしかないか……。 「全員反撃だ! やられそうなら殺してもかまわない!」 俺のこの一言を皮切りにいよいよ戦闘が始まる。この狭い下水道内では味方を巻き込む可能性があるため、大規模な魔法が使いにくい。
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