一章 逃亡。

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加えてこの暗さだ。こういった場所での戦闘には慣れていない奴もいるかもしれない。人数、地理、経験。状況はあまり良くなさそうだ。 「フィナ! 光源は切らすなよ!」 「分かってる!」 向こうの部隊が戦闘し始めても光源をつけないところを見ると、暗い場所での戦闘には慣れているようだ。 その証拠に目の前の部隊長は視界が悪い状態でも的確に急所を狙ってきている。かなりの腕前だ。 「随分と余裕がありそうだな。さすがは一位様といったところか。ではこれならどうだ」 そう言うと部隊長は剣を鞘に戻し、二本の短刀に持ち替えた。それもかなりの早業。 部隊長の動くスピードが上がる。風魔法をつかったようだ。俺の方までまっすぐに突っ込んできたかと思うと、目の前で真上に飛び上がる。 推進力を回転力に変換し、二本の短刀で首と胸の両方を狙ってくる。 俺は一歩後ろに下がり、負けじと風魔法で回避した。 動きが明らかに殺しに来ている。軍が介入したとなればアーダント側も黙っていなさそうだが。俺達が来る前にファント側の状況が悪化したのか? そもそもこいつらの目的はなんなんだ? 考えられるのは俺達の部隊と同じようにアーダント側への潜入だろうか。 しかし今そんなことはどうだって良い。さっさと片付けて待機場所に急ごう。 考え事を放棄してあらためて部隊長に意識を戻す。ちらりとフィナの方を見るとフィナは問題なさそうだが、他の連中はなかなかに苦しそうだ。 再び風魔法を身にまとう。少しだけ本気をだそう。 剣を目の前に構え、僅かにつま先に力を入れる。見た目には分からない程度に膝を曲げ準備は完了。 その次の瞬間には部隊長の目の前にいた。構えた剣を心臓部に突き刺す。 部隊長が驚いた顔をした気がしたがその頃にはすでに俺の剣は胸を貫いていた。 「ごはぁ……」
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