一章 逃亡。

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▽ 「おいおいおいおい、ど、どうなってんだ!」 目の前に広がる光景はにわかに信じがたいものだった。 龍族。名前を聞いたことはあるし、むしろ知らない方がおかしい。 この世で最強と謳われる種族だ。空を飛び、魔法を使い、鋼鉄よりも硬い皮膚を持つという。 しかし、普段人間とは関わりのない種族。そんな龍族が間違いなく、今この戦場の上空に姿を現した。 それもあろうことか背中に人間を乗せて。 ありえないのだ。そんなことは。龍族が人間に従うということはまずありえない。 空に浮かぶ数十匹の龍はそれぞれが背中に人間を乗せ、フォートの城壁から姿を現した。 人間の数倍の魔力を持つ龍族とその背に乗る人間が、同時に大規模な魔法を放つ。 さすがの俺でも一人でこの数は対処できないだろう。第一波を避け、今は前線から離れた位置にいる。 龍の魔法に対処することができる人間はほとんどいない。その種族間には埋められない絶対的な魔力量が理由だ。せいぜい一流の魔術師が全力を出してようやく互角といったところだ。 デトラでも対処できるのは恐らく序列入りしている奴らのみ。 普通の人間が直撃すれば間違いなく死ぬ。 龍が現れてほんの一瞬で、デトラ含むファント側のギルド員はほぼ壊滅状態となった。 強力な炎属性の魔法によりさっきまで草木が生い茂っていた平原は見る影もない。 「フランク、仕事だ」 突然後ろから名前を呼ばれる。聴き慣れた声だ。 「ラット! 仕事!? んなこと言ってる場合じゃねぇだろ!なんなんだよこれは! どうなってんだ!」 ぐふふふ、といつもの気味の悪い笑みを浮かべてラットは目を細めた。 「簡単なことだ。アーダントが龍族と交渉でもしていたんだろう。とにかくさっさと行くぞ。ここはもう良い」
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