一章 逃亡。

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「おい、残ったギルド員はどうすんだ」 「構わん、放っておけ。生き延びたい奴は勝手に逃げるだろうし、序列入りしている奴はもう引き上げさせている」 俺はラットの言っている意味がわからなかった。これでは今回の依頼は失敗だ。報酬はもらえない。 普段のラットならば依頼が失敗ともなればそれはもう大激怒だ。怒り狂ってしばらく機嫌が悪くなるというのに。 「依頼はどうするんだ、そんな顔だな」 俺が訝しげな表情をしていたのを見てラットが嬉しそうに答える。 「大丈夫だ、依頼は失敗していない。ほらさっさといくぞ」 俺の返事を待たずにラットは荷車を隠している森の方向へと歩き出す。 すぐに馬に乗った世話係の奴が現れたかと思うと、後ろに乗せて行ってしまった。 俺は凄惨な戦場を横目にラットを追った。残されたメンバーでは到底、勝目はないだろう。 風魔法で追走し、森に入る。龍族の魔法は俺達が荷車を置いているところまでは届いていない。 かなり距離があったのだから当然なのだが、龍族の魔法がどれほどのものか、見るのは初めてだったため、この後もこの森が無事で済むのかどうかは分からない。 あれほどの数の龍族、それも驚いたがそれを人間が従えていたことが一番問題だ。魔法の規模から見て乗っていた人間が使っていた人間は恐らく軍人だろう。 厄介なことになりそうだ。なんとなくそう感じる。 ラットの姿が見え、俺は荷車を隠していた広場までたどり着いた。 そそくさと専用の荷車に入っていったラットを追いかける。中は相変わらずのきつい香水と煙草の混ざった臭いがした。 中ではすでに副マスターと序列入りしているメンバーが集まっている。 テーブルを中心に約十名。序列二桁以下は呼ばれていないようだ。
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