一章 逃亡。

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足元見やがって……。たしかにラットの言う通り、今依頼から降りればファントからの依頼の報酬も受け取れなくなる。 契約書の規約はデトラ本部までの帰還、基本的にこれが依頼の達成条件だ。 ギルド全体に対する依頼の場合のみだが、不運なことに今回はそのケースが当てはまる。 「っち……。いいだろう。受けてやるよ」 「おお、そうかそうか。なら、よろしく頼むぞ。全力を尽くしてくれ」 俺の左肩をポンポンと叩き、満足げな表情でラットは頷いている。反吐が出る。 「ギルドマスター、あの二人魔人だったんですか?」 テーブルから遠い位置でラットへ質問が飛んだ。誰だコイツ。見たことねぇな。 「ああそうか。お前は知らなかったか」 魔人。魔力が高く、体力、頭脳、全てにおいて人間よりも優れた存在――。と言われていた。今となっては魔人なんていなかったことになっている。 というか存在していること自体知っているやつの方が少ないだろう。なにせ見た目が人間とまったく同じなのだから。 一部で神の生まれ変わりだ、なんて言ってる奴らや、魔人は悪魔だ、なんて言ってる奴らもいる。どちらも極少数な上に相手にされていないのだが。 事実、魔人は実在していた。あまりにも少数だったから今の代の王様が統合したとかなんとか。 よく分からないがフィナからちょいちょい話は聞いていた。ま、もともとはラットから聞いたんだがな。 普通ならそんなこと言っても誰も信じないだろうからな。この中で知っていたのもたぶんラットと俺だけだろう。 「まぁそういうわけで頼むぞ。 魔人といってもさすがに騎士団とデトラをまとめて相手にはできないだろう。 お前たちは下水道に向かってくれ。アーダントの騎士団と挟み撃ちにすることになっている」 話が終わり、メンバーがぞろぞろと外に出ていく。乗り気じゃないが金のためだ、仕方ねぇ。エース、フィナ、悪く思うな。
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