一章 逃亡。

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▽ 「フィナ。大丈夫か?」 「うん。まだまだいけるよ」 その言葉を聞いて安心する。瞬間移動の魔法は魔力を大量に使うからだ。 通常の人間達に比べて魔力量が多い魔人であったとしても、その消費量は少ないとは言えない。 移動距離が短かったため、そこまで心配はしていないがこれからのことを考えるとあまり頻繁に使うわけにもいかないだろう。 「エースどうするの? このまま逃げてもまたすぐ追っ手が……」 このまま目的地を決めずに逃げても相手が国となるとすぐに次の追っ手が来るだろう。 なんとか追っ手が来られないようにするしかない。 「エリシアに逃げよう」 アーダントとファントは東西に接している国だ。その両国を覆うようにして北側にある国、それがエリシアだ。 今俺達がいるフォートと呼ばれる街はエリシアとファントに接している。つまり最も北東にある街だ。エリシアに行くためには関所があり、もちろん俺達を通してはくれないだろう。 しかし、一度国外に逃げられてしまえば一気に楽になる。 アーダントとしても簡単にエリシア国内に騎士団を派遣することはできないからだ。 「一度北側にある森に入って巻こう。それからなんとかして抜けるぞ」 下水道の出口が見えた。下水道内まで他の騎士団員やデトラのメンバーが来ていないことを見ると間違いなく待ち伏せされているだろう。 太陽の光が眩しい。しばらく暗いところにいたせいか目がチカチカする。 丘を登ってラットの部屋で見せられた地図を思い出し、方角を確認した。 出口を出て右側にはフォートの城壁。正面から左側にかかっては背の低い建物が並んでいる。 「いたぞ! 構え!」 街側の丘の麓から声が届く。騎士団の別の隊に見つかったらしい。 「街に入ろう。あいつらも攻撃しづらいだろう」 町の住民を巻き込むことに抵抗はあるが、自分達の命にはかえられない。
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