一章 逃亡。

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一瞬焦ったが、その心配は杞憂に終わった。 「いたぞ!」 後ろにいた一人が声を上げ、方向を指す。 エース達は民家の屋根を伝って逃げていた。この後に及んでも一般人への被害を出さないという考えだろうか。 すでに距離は開いてはいるが今エース達を止める存在はいない。つまり俺達は独力で追いつかなければならない。 魔法の質、種類、量。悔しいがどれをとってもデトラのメンバーではエース達には及ばないことは十分わかっている。 すぐさま後を追いかけ始める。風魔法を使って民家の屋根に昇り、一気に加速した。 他の騎士団達はあてにならない。すでに距離が空いているため、後ろから追いかけてきたのではほぼ間違いなく追いつけないだろう。 残った戦力は俺達とおそらくまだいるであろう騎士団の別働隊だ。 どちらにせよ期待はできない。ここにいるメンバーだけで捕まえるくらいの気概で向かわなければ勝つことはできないだろう。 「おい! あれを見ろ!」 今度はメンバーの別の一人が城壁の方向を指す。 「こりゃ頼もしいな……」 その光景を見た瞬間、顔が引きつった。さっきまでデトラが相手にしていた龍族の部隊がこっちに向かってきていた。 今俺達は城壁と平行に移動している。南から北に向かって逃げるエースたち、そしてそれを追撃する俺たち。それを東側から強襲する形だ。 当然エース達も気づいているだろう。しかし、龍族ならば追いつけないことはない。スピードは互角といったところだ。 が、そんなことなど龍族達は気にする様子もない。 次の瞬間には龍族達とそれに乗っている騎士達の魔法がエース達に向かって飛んでいく。 圧倒的な数の暴力で無理やり足止めをする。エース達が避けた魔法は民家に当たり、瞬く間に周囲を火の海へと変えた。
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