一章 逃亡。

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本心を正直に言えばエースとフィナには逃げ切ってほしい。別に仲が悪かったわけじゃない、と俺は思っている。だがこんなときに考えることじゃないが、エースに技が通じるか試してみたかった。これが最後のチャンスになるかもしれないから――。 「絶斬――」 俺は小声で呟くように魔法名を唱えた。 路地から飛び出したと同時に後方から魔法を撃っていたフィナに対して斬りかかる。まだフィナは気づいていない。 「フィナ!」 いち早く気づいたのはエースだった。俺が出せる本気の加速に対して、近くにいたギルドメンバーより、もしかしたらその場にいた誰よりも速い反応だったかもしれない。 フィナを後方に押し、間に割って入ってくる。思惑通りだった。この状況は俺にとって最も好ましい。 そしてエースの剣と俺の剣が触れた瞬間。 「――っ!?」 ありえない。そんな表情だった。エース達との序列戦でも見せていない俺の固有魔法(ユニークスキル)。絶対切断の斬撃をエースは剣で受けようとしたのだ。エースのソードは真っ二つに、なんの抵抗もなく割れていく。 (よし!) 前情報なしの完璧な不意打ち。これで終わりだと確信した。 しかし剣が折れてから体に届くまでのその一瞬。そのごくわずかな時間で、エースが驚愕の表情と共に身体を無理やり捻り、なんとか急所を避けようとする。 しかし避けきるには至らない。俺の剣はエースの下腹部を容赦なく切り裂く。が、浅い。 「なんつー反応速度だよ……。あんな状態から躱したのはお前が初めてだぜ」 この魔法は前情報があれば対策が可能だ。 当然対策したところで厄介なことに変わりはないが、戦闘のスタイルによっては互角に戦うことだってできる。 実際、これまで戦ってきた敵の中にはすぐさま対応し、対策を講じる者もいた。だがこの状況で、視界が広いとはいえ、完璧と言って良いほどの不意打ちを成功させたにも関わらず、しかも初見でエースは躱した。 それもフィナを守った上でだ。
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