二章 追撃。

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▽ 王都グランザード。言わずもがなアーダントの中心地である。 北東の戦闘に騎士団が投入され、フォートが火の海になったという外号が発刊されたのはつい数日前だった。 これまで戦争に反対していた人々の不安や不満が一気に表面化し、加えて賛成派から反対派に鞍替えする者も少なくなかった。一般市民を巻き込む行為はいくらなんでもやりすぎだという反発は当然だった。町の各地ではデモ活動が起こっている。 つい数ヶ月前まででは考えられない光景。出来立ての政府に信頼なんて贅沢な物はあるはずがなかった。 そんな世間の出来事も騎士団には関係ない。我々軍人の担当すべきところではないのだ。 私――ハンズ・クライスは今日もフォート街での戦闘の後処理に追われていた。 目の前に山積みになっている書類を見てため息がでる。 朝からずっと作業しても減るどころか新たに運ばれてくる書類の数の方が多いため、むしろ増えていた。 「団長。追加です」 アーダント騎士団の副団長――エルバートが目前の書類の山をさらに高くする。 「あのなぁ……少しは手伝ってくれても良いんじゃないのか」 「それができるならとっくに私がやっていますよ」 断られると分かっていてもつい言いたくなってしまう。団長になってから、というよりは新政府ができてから何度も繰り返したやりとりだ。 「上がうるさいですからねぇ。 私も団長に任せっきりなのはどうかと思いますよ。いろんな意味で」 「どういうことだ?」 「いいえ、なんでもありません」 エルバートが何に不満があるのかはわからなかったがそんなことはどうでも良い。 エルバートに向けていた顔を書面に戻し、私はひたすらサインを書く作業に戻った。 作業に戻った数分後だった。団長室のドアが3回ノックされた。 「失礼します」
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