二章 追撃。

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「入れ。どうした?」 「例の件の対象の情報です」 例の件。フォートで魔人二人を取り逃がしたという騎士団にとっては思い出したくもない出来事のことだ。 二人が魔人だということは公表されていないが、懸賞金がかけられ目撃情報を提供した者には賞金が出る。 この賞金のせいで最近騎士団は大忙しだ。入ってくる情報の信憑性は低い物が多い。 事件がいつどこで発生したのかといった情報が公開されていないからだ。 あくまで懸賞金がかかっただけ。 おかげで南西の街で見ただとか、近所に似たやつが引っ越してきたとかそんな物ばかりだった。 「またか……。ならなぜわざわざ報告に来たんだ?」 「それが、今回は目撃情報ではなく接触情報です。加えて証言の日時、場所、ともに奴らの考えられる行動範囲内です」 「ほう……」 これは期待が持てそうだ。それに書類の処理をしているより幾分か楽しめるだろう。 騎士団始まって以来の失態。あれだけの戦力を割いても倒せなかった強敵。 奴と再び戦いたい。剣を交えた時のことを思いだしそんな感情が湧いてくる。 「分かった。行こう」 私は椅子から立ち上がりエルバートと共に団長室を後にした。 騎士団が集まる北館の一階に移動する。団長室は三階にあるため行き来が面倒なのが気に入っていない。 向かう途中、三階の窓から訓練中の兵士達の姿が横目に入った。どうやら実戦形式の模擬戦を行っているようだ。その中でも目をひく試合があった。あれは―― 「頑張っているようだな……」 ぼそりと小声で呟く。自分でも頬が緩んだのがわかった。 螺旋階段を降り、尋問室まで移動する。部屋の前まで来ると遠慮なく扉を押し、中に入った。 部屋に入るなりその場にいる騎士団員達が敬礼する。私は一瞥してから、用意されていた椅子に座った。 見窄らしい格好の男が一人。体格の良い騎士団員に囲われ、中心で縮こまっていた。
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