二章 追撃。

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▽ 随分長いこと暗い世界にいた気がする。意識が覚醒して外界の情報が次々と入ってくる。重たい瞼を持ち上げると、そこには見慣れた顔が心配そうな顔で待っていた。 「フィナ。大丈夫か?」 まだはっきりと覚醒していない頭で意識を失う前の記憶を思い起こす。 「あーそっか。運んでくれたんだね」 騎士団とデトラからなんとか逃げ切りエリシアへの関所を抜けたことを思い出した。いつ気を失ったのかは覚えていないが馬車の荷車から抜け出したところまでは正確に覚えている。 エースが無事だったことにほっと胸をなでおろし、今寝ている部屋を見渡した。木製のボロボロの床に、今にも吹き飛びそうな壁。部屋にあるのは私が寝ているこれまたボロボロなソファーと小さなテーブルだけ。 おそらくどこかの廃墟だろう。 周囲を見渡してから視線をエースに戻すと、ちょうど顔の高さにあったエースの腹部に目が向かう。フランクに斬られた腹部には包帯が巻かれていた。 「エースの怪我は大丈夫なの?」 「あのぐらいじゃ死なないさ。一応もう治ってる。いつものことだ。切り口が綺麗すぎてびびったけどな」 人間より優れた存在――とされている魔人は治癒能力も人間より高い。ことあるごとに怪我をするが、どれほど深くても死なない限りは二、三日で治ってしまう。 これまで大抵はラットの無茶な注文が原因だったのだが。 「……それももう終わり、か」 「いずれこういうことになるのはわかってたんだ。気にするな」 そういうエースの目元には涙の跡がくっきり残っていた。グランザードで仲良くしてくれていた店の店主の顔や地域の子供たちの顔を思い出す。そして私達の父のことも。 『いつかきっとみんなが仲良く暮らせる時代がくる』 普段家にいなかった父が、帰ってくるたびに私達にそう言っていたことは今でもよく覚えている。残念ながらその儚い夢は叶う気配がない。 私達魔人が人間の社会に統合されてからもう十年ほど経つ。統合されたときに起こした事件が原因で結局、統合は失敗に終わった。人間と共存することに反発した一部の魔人達が人間を殺したのだ。
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