一章 逃亡。

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「アレス様には申し訳ないけどおとなしく従おう。いざってときは離脱すればいいさ」 「……そうだね」 そうは言うがフィナは不安そうな表情を浮かべた。俺だって不安が無い訳ではない。万が一、国を上げた戦争まで発展した場合、恩を仇で返すことになる。それだけはしたく無いのが本音だ。 ギルドなんてこんなものだ。お金さえ積まれればどこにだって付く。これは仕方のないことであり、実際俺達だって今回報酬がもらえないのは困る。 ただ今回の契約期間は短く、それを考えれば本格化するまで俺たちが任務にこの依頼を続けている可能性は低い。 「それとエースとフィナ! 俺達の部屋まで来い。話がある」 裏切りを行うための詳しい説明を副マスターがし始めたところで、俺とフィナはラットから呼び出された。 あからさまに嫌そうな顔を作ってやったが、そんなことは気にしていないのかそれとも気づいていないのか、全く気にする素振りは見せない。 「……了解」 メンバーが副マスターの話に耳を傾けている中、俺達はラットの部屋に向かう。当然部屋といっても便宜上そう呼んでいるだけだ。 荷車の荷台には骨組みが作られ、全体が布で覆われている。荷物を置く場所は無い。つまり一つの荷車をまるまる使って部屋としているという訳だ。 荷車を引いていた馬の横を通り過ぎて中へと入ると、豪華なソファーにベッド、テーブルの下には酒瓶が転がっている。殺風景だが長い旅であることを考えれば十分豪勢だろう。 「なんでしょう?」 葉巻を噴かして一服しているラットに俺が催促する。相変わらずのきつい香水と煙草が混ざった臭いがとても不快だ。 「ああ、そうだったな。実はな、今回の裏切りの際にお前らに頼みたいことがあるんだ」 どうせ拒否権はないとわかっているくせにわざわざ回りくどい言い方をしてくる。腹立たしい。さっさと内容を言え。 「これをみてくれ」 そういうとラットはおもむろにソファーにあった一枚の紙をテーブルに広げた。 「今回の戦場の地図だ。お前らには何人か連れてここにある地下通路で待機しておいて欲しい」
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