一章 逃亡。

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ラットが指さしたのは戦線からかなりはずれた位置にある地下通路だった。もともとは下水道の管のようだ。 「この通路はもともとアーダントとファントの両国が使っていた下水道だ。出口の一方はファント領の近くまで伸びているが当然アーダント側にも出口がある。今回我々は直接戦線に向かうからアーダント側の拠点には寄れない。内部の情報がない訳だ。まぁ、要は伏兵だな。アーダント側には怪しまれないように俺から話しておくから心配するな。で、俺達が裏切った後に指示を出すからアーダントの拠点までいって内側からかき乱してくれ」 地図をたどっていくと下水道の一方が赤いバツ印に繋がっていた。もう一方に青いバツ印があることから赤いバツ印はアーダントの拠点を表しているのだろう。 「まぁ危険な仕事だが、お前たち二人なら大丈夫だろう? なんてったって序列一位と二位なんだからなぁ。これくらいの仕事はこなしてもらわないとなぁ」 ラットは顔の筋肉を緩ませて憎たらしい顔つきで嫌味たらしく俺に確認してくる。 「わかりました。ただしその分の報酬は当然加算されるんでしょうね」 「もちろんだとも。今回ファント側からかなり積まれたといっただろう? 報酬は弾むよ。ぐふふふ」 俺の肩をポンポンと叩くとテーブルに広げていた地図をクルクルとまとめソファーに戻す。随分適当な扱い方だ。 「部隊の編成はこっちで適当に見繕っておく。また報告する。戻って良いぞ」 短い返事を返して俺達は踵を返す。 「ああそれと」 入口の近くまできたところで再び声がかかる。憎たらしい表情を顔に貼り付けたラットはらしくない言葉を言い放った。 「気をつけてな」
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