一章 逃亡。

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「じゃあお前達はここから入っていけ。部隊の人数はお前たち含めて十二名だ。少ないことは重々承知しているが多すぎても問題だ。まぁ、戦力的には問題ないだろう」 ラットが見繕ったという部隊のメンバーと共に、俺達は下水道の入口の前にいた。 入口は半円状になっており小さいが、中を除いてみると思っていたよりは広い。中央の下水道と両脇にある、メンテナンス用のスペースをいれると普通の道ほどの幅があった。当然下水が流れているということはなく、役割を果たした中央の下水道は寂しそうに乾いていた。 普通に立っても頭をぶつけない程度に高さもある。部隊メンバーの中に顔見知りはいない。全員が序列外のメンバーだろう。 「了解した。突入の連絡はどうする?」 今回の作戦では本隊が裏切ったタイミング、そしてある程度城壁まで攻撃が及んだ段階で突入しなければアーダント側の混乱を招くことができない。つまりなんらかの連絡手段が必要だ。 「これを渡しておく。貴重なものだ、壊すなよ」 ラットから受けとったのは青く光るクリスタル。魔法道具(マジックアイテム)の魔力結晶と呼ばれるものだ。二対になっており、使用者の魔力を込めることで遠く離れた場所でも合図を送ることができる。 高価なものになれば文字のやりとりや会話も可能になる。ラットから渡されたものは合図しか送れないものだった。 「俺の魔力が流してある。それが赤く変色したら突入の合図だ。いいな?」 「了解」 遠くからフランクがこちらに手を振っているのが見える。彼なりの激励といったところか。 「いくぞ」 部隊のメンバーに声を掛け、俺は下水道の中に入っていった。中はとにかく暗い。光源はフィナに任せるか。あいにく油がないため魔法を維持しないといけないが、特に問題はないだろう。 部隊の全員が中にはいったことを確認すると俺はラットから渡された下水道内部の構造図を開き、フィナに照らしてもらう。 構造図には予め待機場所の印がついている。今いる場所はどちらかといえばファントに近い場所。 この狭い空間だと魔法をつかった移動は少し難しそうだ。俺とフィナだけならともかく部隊の連中には少しむずかしいだろう。
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