四章 魔女。

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化け物が叫び声をあげ、エースに突っ込んだ、そう思った。魔法は確かに発動していたし、化け物が纏う殺気は本物だった。勢いよく進み始めた化け物の身体と頭は切り離され、身体の方は勢いを失うことなく進み俺の目の前に転がり崩れる。 目で追うことなど到底できない異次元のスピードでエースは化け物がいた後方に移動していた。フィナの使う魔法とはまた性質の異なったものに見える。通り道にはその名残であろう紫電が土に纏わりついて今でも流れており、その威力を物語っていた。 目の前にある化け物の身体がみるみるうちに砂のように変化し、宙に溶けていく。すべてが砂に変わるわけではなく、一部分は形を残していた。最終的に残ったのは一振りの刀だった。正常な判断力と体力が残っていれば真っ先にその刀を確認するだろうが、今の俺にはそんなことを気にする余裕はもうない。 「……エース」 再び元同僚の名前を呼ぶ。しばらく硬直していたエースはしばらくして振り向く。相変わらず表情はなく、冷酷ささえ感じた。何も言わないエースに俺から促すこともできずに、話始めるのを待った。 「……今のお前にアリアを渡すわけにはいかない。でも……必ず迎えにこい」 その言葉を聞いて言いたいことは山ほどあるが、残念ながら俺の意識がもう持ってくれそうにない。暗闇に手繰り寄せられる感覚に抵抗するのはもう限界だった。 「……なんで、お前が」 アリアを知っている、そう言おうとしたところで俺は意識を手放した。化け物が残した刀をエースが拾い上げ、まじまじと見つめる。エースといえども倒した相手の身体からなにかが出てくるというのは初めてだろう。危害がなさそうなことを確認すると自前の剣が刺してある左側の腰へと並べて納めた。 「……フィナ、いこう」 俺の後ろの木の陰からフィナが姿を現す。俺の状態を見て一旦は立ち止まるが、エースが制止した。時間がない、それだけ言うとグルードのメンバーの方に歩き出す。 「だれかが治療してくれてる……。フランクの仲間かな。ねぇ、やっぱり……」 「大丈夫だ。あれくらいじゃあいつは死なない」 「……わかった。なかなか大変そうだね」 倒れたグルードの面々を見渡して軽く息を吐いた。今の状況を考えればフィナの魔法での移動が最も効率的だが、人数が多いため魔力の消費量を考えると難しいのかもしれない。 「でも急がないと。ここに来る途中に麓でエリシアの騎士団が見えた。すぐにここまでくると思う。それにちゃんと治療もしないと」 俺たちがここにきてからもうかなり時間が過ぎている。町民が異常に気付いて騎士団に通報し、騎士団が動き始めるには十分な時間だ。特に状態のひどいアリアは急いで処置しないと後遺症の可能性もある。 「よし、いこう。アリアとライトを連れて先に行ってくれ。往復になるけど大丈夫か?」 「大丈夫。わかった」 運ばなければならないのは計七人。エースが二人抱えて運ぶにしても足りない。一度に大人数運ぶよりは分けた方がフィナの負担は少ないようだ。フィナがまずアリアの身体を持ち上げ、右肩に抱えた。エースが手伝いもう片方の肩にライトを抱える。そして魔法を発動する。身体が発光し始め、宙を見上げ少しの間の後姿を消した。 「さて……。俺も急がないと」 残されたエースがぽつりと呟く。残された五人のうちスラックとチャンを残してミーア、レイ、メイを抱え、魔法を発動した。 広い空間に久々の静寂が訪れる。しかし元の姿は見る影もない。地形は変化し、残された血痕と四人の人間、そしてまとっていたスモークは徐々に戻りつつあるものの、まだ時間がかかりそうだ。 長かった戦いは、ようやく終幕を迎えた。
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