一章 逃亡。

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二人の全身が見えなくなると同時に光も消え、残った魔力の粒子がまるで雪が降るかのように辺りに拡散する。行き場を失った白い魔力たちは時間とともに地中に溶けていく。 周囲には静寂が訪れる。龍族の魔法が止まり、乱雑に撃たれていた騎士団員達の魔法もピタリと止まった。 もはや神秘的とも言えたその光景にそこにいる全員が見とれていた。 「……捜せ! 早くしろ!」 騎士団の部隊のリーダーが指示を出したのを皮切りに騎士団員達が慌てて動きだす。 「フランク。俺達も……」 メンバーの一人が言いかけたがそれを遮る。 「いや、無駄だ」 さっきまでの移動とは明らかに規模が違う。 瞬間移動の前にエースが屋根に登ったということは俺の“移動は視界内でしか行えない”という推測はおそらく正しい。 つまり空中から見渡せるすべての範囲に移動した可能性があるということになる。 たとえエースがあれだけの傷を負っていたとしても今からばらばらの方向に追って捕まえられる相手ではない。返り討ちにされるのが見え透いている。 つまり無駄な労力ということだ。 「帰るぞ」 メンバーに声を掛け、火の海となったフォートの街を眺めながら俺達は帰路についた。
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