西田さんの恋

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佐藤修二、二十五歳。社会人三年目。企画会議も三回目。さあて、今回もやって参りました。  全員が席に着くのを確認すると、編集長が弛んだ頬をぶるぶる震わせる。ブルドッグか。それに比べ、隣に座るADの西田さんはファンデーションでしっかり肌を包み、真珠のような輝きを放っている。赤フレーム眼鏡が良く似合っている。あれ、今日は唇もいつもに増してプルプルしてるなあ。おデートでもあるのだろうか。 「えーでは、これから『M’ s LINE』九月号の企画会議を始めたいと思います。えーでは、まず社訓から……」  時計の針は二の少し前と十二の少し前。もう少しで二時かあ。早めに終わらないかな。資料の一ページ目に毛筆フォントで印字された社訓をお経のように読み上げる面々。  ーーちっ。社訓めんどくせえよ、さっさと始めろよ おっ。さっそく聞こえてきましたなあ。まあね、確かに社訓なんかどうでも良いよな。分かるよ君の気持ち。 「世の中に利益をもたらす、個人に利益をもたらす……」  ???なーにが利益をもたらすじゃ。こんな弱小雑誌でもたらせる訳ねえじゃねえか うんうん、確かにね、確かにね。しかも雑誌の名前もダサいよな。なーにが『M’ s LINE』じゃ。MはMusicのMで、音楽の変遷、そしてこれからの音楽が辿る道をつくっていく、じゃ。ダサいんじゃ。 「えーでは、さっそく企画会議の方に参りたいと思うのですが、まず、ADの方から再度、九月号のトンマナの話をお願いします」 では、西田さんのお願いします、と編集長が彼女に向かって軽く頭を下げる。  ーーああ、西田さん天使  ーー可愛い  ーー今日、化粧濃いな  ーー彼氏いるのかなぁ  ーー西田さん可愛いなあ ああああ。脳内に一斉に言葉が流れ込んでくる。しかも野郎の。こういう時は心を硬くしてシャットアウトする。しかし、皆こんな真面目腐った顔して内心は盛り立っちゃってきもいな。自分も言えないが。
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