第1話 失態

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実家から誠一の職場までは、アクセスがややこしく、バスと電車を乗り継いで1時間半ほどかかる。 車での通勤は認められていないので3年前から職場近くの安アパートを借りているのだが、今日はその距離が倍にも思えた。 誠一はバスと電車を乗り継いで最寄り駅で降りた後、フラフラとアパートへの遠い道のりを歩いた。 9時を過ぎた時点でその道はバスの運行がなくなるのだ。 普段は歩くことなど苦にもならなかったのに、今日はまるで一気に年を取ってしまったように体が動かない。 寝不足の上に飲みすぎたせいもあるのだろうが、やられてるのはきっと気持ちの方なのだろう。 明日は仕事だし、無理せずに大通りを渡って、タクシーでもつかまえよう。 そう思い、傘とボストンバッグを持ち替えて、柵の間から横断歩道の方へ体を乗り出した。 途端、カサリとポケットが音を立てた。 急激に込み上げる、〈ポケットの中に、間違ったモノが入っている〉という感覚。 これはどこかで感じたものと同じだ。……何だったろう。 遠い昔、幼い自分の胸を責めた罪悪感。 父親の怒鳴り声。 脳内のその回想に乗っ取られ、突進してくる車の音も、ヘッドライトの明るさも感じなかった。
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