A子の正体

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「誰に嫌われたくないの?」 誰も居ないはずの暗闇に、ポツリとひとつ、低く穏やかな声が響いた。 止まるかと思った心臓は、瞬く間に鼓動を速めていく。 恐怖に震えながら、手探りでカーテンを掴むと、恐る恐る開いた。 うっすらと明るくなったそこには、角っこに古びた机と椅子が一つずつ。 見覚えのある男子が座っていた。 「…………あっ」 瑛子はほぼ錯乱状態だった。 先に誰かが居るなんて思いもしなかったから、室内をきちんと確認せずにカーテンを閉めてしまったのが運のつきだ。 震える足で立ち尽くしている瑛子に、彼は近づいた。 「おい。大丈夫か?」 「お……」 「お?」 次の瞬間、瑛子は勢いよく地面に這いつくばい、頭を下げた。 「お願いします!このことは黙っていて下さい!」 「は!?」 「お願いします!なんでもしますから!どうか皆にはバラさないで下さい」 「……バラすって、暗いとこでぶつぶつ呟いてたところを?」 恥ずかしさで涙が出そうになるのを必死にこらえ、首を縦に振った。 こんな奇怪な行動をしていたことがバレたら、問答無用で即効嫌われてしまう。 そうなったら一貫の終わりだ。 だめ押しで深々と土下座する。 しかしよりによって、何故“彼”なのか。 もしかしたら神にまで嫌われているのと違うか。 「わかった。黙っとくよ。じゃあさ」 彼は急に薄ら笑いを浮かべた。 「俺の女になれよ」 「………………え」
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