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すすり泣く声はしばらく続いた。僕は無言で扉の前に立って泣き止むのを待った。
やがて声は止み、大きく鼻を啜る音が響いた。
そしてさっちゃんは嗚咽混じりの消え入りそうなくらいか細い声で言った。
「誰にも言わない?」
「うん、言わないよ」
「あのね……わたし、恐いの」
「そんなとこに一人でいるからだよ」
「ううん。そういうのじゃないの。お父さんが迎えに来るんじゃないかって。だから恐いの」
「お父さんが恐いの?」
「……毎日痛くて苦しいの。やめてって言ってもやめてくれなくて」
さっちゃんの声は震えていた。僕はさっちゃんに元気になってほしくて、
「そんな悪いヤツ、僕がやっつけてやるよ!コブラレンジャーみたいにさ!」
と、当時流行っていたヒーローの名前を出した。決してふざけていたわけじゃなく、本心で言った。それを分かってか、さっちゃんも少しだけ嬉しそうに「うん」と相づちをうった。
「でも、そんなことしたらお母さんは死んじゃうよ。お母さん、お父さんの事大好きだから、きっと死んじゃう」
死んじゃう。その言葉は妙な現実味を帯びていて、僕は少し怖かった。
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