レンズの魔法がとける時

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彼女は俺の横をすり抜け、ガラスケースの前へと移動し、くるりと方向転換。 スッと両手を広げ、小首をかしげた。 「どちらの花をご所望ですか?」 天使だ。天使がいる。 たくさんの花に囲まれた姿はホントに綺麗で。 「あ。ブ、ブーゲンビリアを。」 かしこまりました。とブーゲンビリアを一輪。それを丁寧に包んでくれる。 憧れの彼女がいま目の前にいる。 いるのに声が出ない。 俺ってこんなにもヘタレだったのか…… 異様に喉が乾く。 手に汗をかく。 財布から小銭を探す指まで震え出し、上手く取り出せない。 「『あなたしか見えない』ですか。」 その言葉に手元から視線を上げれば、ブーゲンビリアを手に微笑む彼女。 はい。と手渡され、想いが届くといいですね?と付け加えられた。
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