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「この観覧車、今、誰かお客さん乗ってますか?」
「ん? 今はいないよ。ま、平日はこんなもんだね」
そこそこ年配の、いかにも人の良さそうなオジサンが答えてくれる。もちろん、見かけで人を判断するのはよくないことだけれど、友達には多少は響いたらしい。
「…え? あれ? どういう、こと?」
「…お前、その女の子、今も見える?」
聞くと、観覧車を見上げた後、友達は深く頷いた。そいつを観覧車から少し離れた位置まで引きずって行ってから告げる。
「その子が見えるなら、とりあえず、ここで乗降地点にゴンドラが戻って来るのを待ってろ。その時の係員さんの対応が答えだ」
俺の迫力に何かを悟ったのか、友達はすこぶるおとなしくなり、見定めていたゴンドラが戻って来るのを待っていた。でも、俺としては当然だけれど、そのゴンドラの扉は開かれない。降りて来る女の子なんている筈もない。
「……え、と…これは、どういう…」
「見ちゃいけないものを見た。でも、俺とあの係員さんのおかげで引き返すことができた。…それで納得しろ」
脅しの意味を込めて、少しドスの利いた声でそう告げる。それに少しの間ためらったものの、一応納得したのか、友達は青ざめた顔で頷いてくれた。
…あれから、このテーマパークには何度か足を運んでいる。デートだったり友達とだったりと、一緒にいる相手は様変わりしているが、観覧車をどう眺め回しても、やはり俺には女の子とやらの姿は見えない。
ちなみに、同様にここを訪れた友達には何度か見えたようだけど、無視を決め込み続けたら見なくなったと言っていた。
多分、幽霊だよな。でも、このテーマパークで人身事故が起きたとかいう話は聞いたことがないから、おそらくは、ここに来たかったけれど叶わなかったとかいう幽霊だろう。
そういう『モノ』がいる以上、知っているのに知らん顔は心苦しいから、このテーマパークに来たとしても観覧車には乗らないようにしている。当然、友達もな。
アンタがどこの誰か知らないけど、観覧車にどんな執着を持っているのかも知らないけど、人様に迷惑かけるなよ。
近くを通れば嫌でも目に入る巨大な観覧車。それを見るたび、ちょっと差し出がましいかなと思いつつ、俺はそう思うことにしている。…この説教じみた思考で、見たこともない女の子の幽霊が成仏してくれるならと願いながら。
観覧車…完
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