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友達はすっかり夢見る顔つきになって、地上に近づくにつれそわそわしだす。
でもこっちは、地上が近づくにつれて何だか胸騒ぎがし始めた。
いくら観覧車が絶えず動いているといっても、俺と友達は同じゴンドラに乗っているし、相手の女の子は一つ前。この条件は変わらない。なのに、どう頑張っても俺には女の子が見えないのだ。…一つ前のゴンドラが乗降の位置に着いた今でも。
中に人がいれば係員さんが出迎え、扉を開けてくれる。なのに前のゴンドラはスルーされて、降りる人どころか扉を開けられることさえない。
それを俺ははっきり見ているのに、友達は、逆にそれだけが見えなかったようなのだ。
「あの子、下で待っててくれないかなー」
今のを見ていなかったのかと言っても、まるで聞く耳なんか持ってない。どころか、下に着くなり、女のことやらが近くで自分を待っていてくれるのではと探し出す。
「あれー? おっかしいな。さっきはあんなに笑顔で手とか振ってくれてたのに」
幸いも、どれだけ探しても女の子は見つからなかった。でも、友達は未練たっぷりの様子で観覧車付近をウロウロしている。
さて、こいつをどう説得しよう。そう思った時、友達がいきなり叫び声を上げた。
「あ!」
見ている方向につられて視線を向ける。でもそこにあるのは、誰か乗っている様子もない観覧車だけだ。
だけど、友達の目には観覧車は無人ではないらしい。
「なんだ。あの子、また観覧車に乗り直してたのか」
そう言いながら指差す先には、俺としては当然だが、無人のゴンドラがあるだけだ。
「観覧車好きなのかな」
のんきなことを。せっかくその女のことやらが観覧車に乗り続けてくれているんだ。この隙に帰るぞ…と思ったが、多分今のこいつには、そんなことを言っても無駄だろう。
危険かもと、暫く迷ったが、俺はあえて、女の子が乗っているというゴンドラが降りて来るのを待った。
もうじき、もうじきと隣でつぶやく奴同様、もうじきだと、警戒心を強めて待つ。
「あれ? 何で?」
俺が、そうあってくれと望んだ展開が起きた。そう、例のゴンドラが、扉を開けられることなくまたスタート地点を旅立って行ったのだ。
「ちょっ…係員さん! 今のゴンドラ…」
乗降口の側にいる係の人に詰め寄ろうとする友達を、まあ待てと制する。その上で、俺の方から係の人に声をかけた。
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