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「ミワはさぁ、可愛い顔なのにクールだよね」
カウンターの向こうでシェーカーを振りながら中野渡アゲハが言った。
「可愛い? 俺が?」
真面目な顔で柏木美和が返すと、中野渡はにっこり笑った。
「うん、とても。ミワは自分で自分の顔を見たことが無いの?」
「あるよ、それぐらい。でも、顔は、俺の努力で得たものじゃないからね……どちらかというと、この出来た性格を褒めてもらいたいね」
小さく笑って返した柏木の前に、中野渡は華奢なグラスを二つ置いた。薄い桃色のカクテルは、さっき振っていたシェーカーの中身だ。
「どうぞ───二人に俺の奢り」
それだけ言って中野渡がカウンターを離れると、ずっと硬い表情で黙っていた杉浦が口を開いた。
「だから私はアルコールは駄目だと……」
「それは俺にじゃなくて蝶に言った方がいいんじゃないの?」
「蝶にはグレープフルーツジュースって言ったのに、出てきたのがコレなわけだから、言っても無駄だと思うのですが」
相変わらず杉浦は理屈っぽい。
「伊周、きみ、オカシイよ。俺に言っても仕方がないことだ、それは。嫌なら残しておけばいいし、なんなら、ここを出てからカフェに寄って、俺がコーヒーでも奢ってあげる。だからそんな顔で俺を見ないの」
「いや、だから、貴方に文句があるわけじゃなく…」
杉浦はまた俯いた。この男は真面目なせいかひどく気難しい。
「伊周、俺にどうしろっての?」
「柏木さんにどうにかしてもらいたいわけじゃないですよ」
すると柏木は小さく笑った。
「どうして伊周は俺に突っかかるの? なんだか攻撃的だよね、いつも。俺に恨みでもあるの? それとも俺が意識していないところで伊周になにかしたかな?」
杉浦は柏木を見ずに小さく首を振った。
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