急いては事を仕損じる

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「伊周、もう少し寝てたら?」 「いえ…それよりここは?」 「俺の部屋」 「このベッドは?」 「俺の」  すると杉浦はゆっくり身体を起こし、不躾にならない程度に部屋を見た。 「貴方は本当に小柄なんですね」 「伊周を背負ってここまで帰ってくるぐらいのことはできるから不自由は無いよ」 「すみません……水、もらえませんか」  すると柏木は、小さなテーブルの上に用意していたグラスを取って杉浦に渡した。 「ありがとうございます」 「身体はもう平気? 驚いたよ、いきなりイスから落ちるみたいに倒れたから」 「驚かせてすいません───が、ああなることは分かっていました。アルコールを飲めば倒れます」  相変わらず硬い口調で言う杉浦の顔を驚いたように柏木は見つめた。 「飲めば倒れる? だったら飲まないでよ」 「貴方が私を挑発したからですよ」 「挑発? 俺が? どの辺りが?」  すると杉浦はぷいっと顔を背けた。 「私は柏木さんがどんなご家庭で育ったのかは知りませんが、貴方に私を評価する資格があるのですか? そりゃあ私なんか灰原さんや他の人たちに比べたらぬるいでしょうけど、それを貴方に過保護だなんて言われる筋合いはありません」 「うん、ごめんね」  柏木はあっさり折れた。 「……ええ……もういいですよ」  あっさり折れられたせいで、自分だけ拘るのも大人げないと思った杉浦も折れた。その杉浦の手から、空になったグラスを柏木は取った。 「俺はさぁ、両親はいるけど血縁関係は無いんだよね」 「養子なんですか? あ、いや……失礼…」 「いいよ、気にしないで。俺の場合、養子とはちょっと違うかな……うん、ま、父親が誰なのか分からないってことだけははっきりしてる。俺の生みの母親ってのが嬢でね、避妊してても出来る時は出来るらしいの。その失敗作が俺」  柏木は杉浦を見つめてにこっと笑った。
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