急いては事を仕損じる

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「母親は俺をつれて初めて結婚したんだけど、嬢はやめないし、そんな女と普通の男が続くわけがないし、一年ぐらいで離婚したわけ。その時、俺、五つぐらいかなぁ……もちろん母親につれていかれたんだけど、食べさせてもらえなくてね。ネグレクトってやつだよね。どうしても我慢できなくなって、父親やってくれてた人に電話したら、女性が出たのね。恋人だって。その女性が戻っておいでって言ってくれて辛うじて餓死はしなかった。その男は、俺と養子縁組してたらしくて、離婚した時にまだそれを解消してなかった。だから、俺の話を聞いた後、裁判してくれて、親権が嬢の母親から父親の方に移ったの。その頃、父親は例の恋人と結婚してて、俺は正式にその夫婦の子供として養子縁組ってことになったわけよ」 「複雑ですが、その時点で両親とも他人ということですね」 「伊周はやっぱりお利口さんだね」  相変わらずどこか棘がある柏木の言い方に杉浦は内心むっとする。 「夫婦の間に女の子が生まれてから、父親の方が俺に当たるようになってね……俺は、妹は可愛かったけど、可愛いせいで俺が疎まれるのかと思ってたよ。でも、違った。俺は彼の息子じゃなかったってだけのことなんだ。そしたら、俺が十才の時にまた離婚。俺と妹は母親に引き取れらた。それからまた一年くらいして、俺が中学に上がる頃かな、母親は再婚した。俺のことは捨てていくのかと思ったけど、つれていってくれた」 「他人ばかりですね」 「母親と妹は血縁だよ。まぁ、四人家族が他人ばかりっていうのはその通りだけどね。新しい父親って人は、学があって、それなりの仕事してて、でもなにかが足りなくて、うちの母親のぽや~としたところがたまらなかったみたい。俺は他人ばっかりの家で六年過ごして、間で弟もできて、大学進学で東京に出てきた。それからはずっと一人」  杉浦は柏木をちらりと見た。 「それで私にどうしろと? そんな話を聞かされてもどうにもできませんよ」 「そりゃそうだけど」  柏木は杉浦を見つめてにっこり笑った。 「でも俺、誰にも話したことはないよ───そりゃ、仕方なく学校の先生なんかには言ったけど、自分から言ったのは伊周が初めて」 「───私が初めて?」 「うん」 「頭は? 頭にも言っていないのですか?」
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