Ⅰ×百戒

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「奥様」  聞き慣れない声で母様を呼んだのは、ずっと背後に控えていた僕の監視役。 「何ですか、古守(こもり)?」 「及ばせながら、私めが飛鳥井様に龍児坊ちゃんの友達になってくれるよう頼みました」  古守が、飛鳥井さんに……? じゃあ僕と遊び、友達になったのは頼まれたから? 「百の家訓に縛られ、窮屈な毎日を送っておられる龍児坊ちゃんを見ていられなくなったのです。それで、誰よりも自由に生きる彼女に賭けてみようと思った次第です」  ポカンとする母様に、更にまくし立てる古守。 「龍児坊ちゃんは奥様が作られた作品でもなければ篭で飼育している小鳥でもございません。坊ちゃんは、人間でございます!」  母様の言葉を待たず、古守は次に同じくポカンとしている僕と向き合い、サングラスを外して熱い眼差しで訴えてきた。 「龍児坊ちゃん。坊ちゃんの人生は、坊ちゃんだけの物です! どうか自由に羽ばたいて下さい!」 「そうだよ龍児! 自分らしく生きるって夕日に誓ったじゃん!」  10年間、鎖でがんじがらめにされていた自由。  飛鳥井さんの弟さんが、二度と手にできない自由。  だが僕は、ほんの……ほんの少し手を伸ばせば、届くんだ。  …………自由に!
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