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ある日、A氏は結婚の事で両親や親族と話をするために久々に実家に帰っていたが、ふと懐かしさに駆られて話の場を抜け、何年か振りに自身の生まれ育った町を散策し子供の頃よく遊び場にしていた児童公園に立ち寄る。
「この公園は昔と少しも変わっていないな」
夕焼けに照らされて茜色に染まった小さな公園を眺めてA氏はふと昔を懐かしむようにそう呟く。
『そうですねぇ。この公園も、貴方も、そして私も、あの頃からまるで変わっていない』
突然自身の背後から聞こえたその声に驚いたA氏は慌てて振り返ると、そこにはこのこの夕焼けと同じ紅い色の燕尾服を纏い、同じく紅い色のシルクハットをかぶったどこからどう見ても奇妙かつ不気味な男が手にしたステッキを弄びながら佇んでいた。
「アンタ一体 何者だ?」
男の醸し出す不気味な感触に警戒したA氏は、そうきつく問い詰める。
『おやおや?私の事を覚えていませんかそれは残念……まあそんな事はどうでもいいんですよ。私としては貴方が子供の頃に私と交わした約束をきちんと果たしてくれさえすればね』
「子供の頃の約束だと……?」
男の言葉を聞いたA氏は酷く動揺する。
普段のA氏ならこんな馬鹿げた話には耳を傾ける事は無い。がこの夕焼けの中、この公園で、あのイカレている服装をしている男と話をしていると、何か思い出してはいけない、それこそ思い出せばとんでもない災いがこの身に降りかかるのではないかと思い始め気が気で無くなる。
「ぶざけたことを抜かすなっ! オレはオマエみたいなイカレた格好した男なんかにっ!」
(……会った事がある)
A氏は男に叫ぶと同時に、鮮明にその時の事を思い出してしまう。
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