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「吉川っ! 頼むーっ!」
ノーマークの選手が強く蹴りあげたボールが、大きな山なりを描いて、ゴール付近に向かって走っている、吉川に目がけて放たれた。ボールの着地点を見極めながら立ち止まって両手を広げ、軸足を踏み込んでシュート体勢に入る。
その姿から目が離せなかった。
立ち止まった瞬間に空中に飛び散る汗や、ふわりと揺れる茶髪、息遣いさえも見逃したくなくて、呼吸を忘れて見惚れてしまった。
吉川は一瞬たりともボールから視線を離さずに、そのまま体を寝かせて腰を回転させながら、華麗なボレーシュートをする。弾丸のような威力を持ったボールはキーパーの手に触れたけど、その守り手を一瞬で吹き飛ばし、ゴールネットを揺らしたのだった。
――すごい、カッコイイ――
組んでいた手を胸に当ててみると、いつも以上に鼓動が高鳴っていることに、動揺を隠せない。
(ちょっと待て。同性にときめいて、どうしちゃったんだ……)
自身の事情で困惑を極めた僕をよそに、ホイッスルの音がピッチに鳴り響き、試合終了が告げられた。
「やった~! 勝ったぞ!!」
仲間同士で抱き合って、揉みくちゃにされながらも満面の笑みを浮かべる吉川を見て、またもや胸がドキドキした。
この感じって誰かに恋したときのリアクションに、とても似ていた。それを自覚した途端に、頬にぽっと熱を持つ。いくら格好いいからって男子にときめいて、どうしていいのやら。
狼狽する僕を尻目に、応援席の前できちんと整列したサッカー部員。吉川だけじゃなく、メンバー全員が輝いた笑顔を滲ませていた。
「今日もたくさんの応援、ありがとうございました! お蔭で勝つことができました!」
声を張りあげながら応援席に向かって、きちんとお辞儀をする吉川。頭を上げた瞬間にバッチリ目が合った気がしたので、慌てて逃げ出してしまった。
試合終了のホイッスルが、恋の開始を示すホイッスルだったのがわかるのは、随分あとになるのだった。
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