煌めきの瞬間

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 はーっと大きなため息をついたとき、覗いていた教室の扉が一気に開け放たれる。自動扉じゃないのに勝手に開いた扉にビビり、慌てて数歩退いた。 「おい、なに覗いてんだ吉川!」  視線がエロくてキモいと言いながら、大きな体を使って俺を廊下の隅っこに追いやる、野球部のエースの伊場淳(いばあつし)。中学の頃から騒がれている天才ピッチャーで、ここの高校には推薦で入ったらしい。  俺よりも多分10センチ以上背が高くて、見下ろしてくるその様子は、怒っていなくても迫力満点だった。野球部特有の坊主頭なれど、その髪形がシャープな顔立ちのごまかしを許さず、まんまイケメン様々って感じにみえる。  しかも硬派で誰にもなびくことなく、自分を貫いてるところがステキだと、多くの女子が騒いでいた。 (そういえば淳のヤツ、トモヒトと仲が良かったハズなんだよな) 「淳、相談があるんだ」 「はぁ? 友達でもないのに、いきなり馴れなれしいな。しかも相談っていったい……」 「おまえと今から友達になりたい」  きっぱり言い放った俺のひとことに、淳は眉間に深いシワを寄せて、不快感を露わにした。 「なに考えてるんだ。俺と友達になりたいからって、エロビームを飛ばしてたのか?」 「おまえにじゃねぇよ、アイツにだ」  右手でトモヒトを指すと、へーっと呆れた声で頷く。 「吉川と彼とじゃ無理だ。だってチャラいのキライだし、話も合わないと思う」 「俺はチャラくねぇって!」 「いやいや。その茶髪に日に焼けた黒い肌、煩い口はもうまんまチャラいだろ」  ゲラゲラ笑う淳の声にトモヒトがぴくりと反応して、こっちを見た。俺が飛ばしてる視線と、一瞬だけ絡む。  その瞬間、胸がドキッと高鳴った。そんな自分の反応に驚き、固まったままでいる俺を一瞥するなり、口元を「あ」という形にして、ぷいっと顔を背ける。 (――なんだろあの態度。俺ってばトモヒトに嫌われてる?)  甘く疼いた胸をぎゅっと押さえると、淳が怪訝な顔をしながら、俺とトモヒトを交互に眺めた。 「吉川、なにかしたんだろ? 残念ながら、すでに嫌われてる。アイツの顔に、不機嫌って書いてあるぞ」 「俺、なにもしてねぇし……」  目が合った喜びから一転、奈落の底にどんっと突き落とされたような気分になった。どうしてこんなに、ショックを受けてるんだろう。 「とにかく、吉川には仲介はしない。そんな顔してるヤツならなおさら」 「そんな顔?」 「最初に言っただろ。エロビームを飛ばしてたって。下心丸出しのヤツに、大事な友達を紹介しない」  淳は大きな右手で、追い払うしぐさをする。  このときは俺自身の気持ちがわからなかったせいで反論すらできずに、黙ったまま淳のセリフを聞き続けるしかなかった。 「友好的で活発な茶色の柴犬が、警戒心の強い黒猫には近づけないから。そこんとこ、よーく踏まえてくれよな!」  言いながらぴしゃりと扉を閉じられ、呆気なく終了してしまった友達申請。ショックすぎて、その場から動けなかった。  他人に指摘されて、はじめて気がついた。自分がトモヒトのことを、恋愛感情で意識していたなんて。  扉から窺える窓からぼんやりと教室内を眺めていたら、淳がトモヒトの傍に行き、なにかを話かけた。それに応えるように柔らかく微笑んで喋る姿に、自然と胸がしなって痛んだ。  俺には絶対に見せてくれないその笑顔が眩しすぎて、このときは目を伏せるしかなかった。 【続きは製品でお楽しみください】
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