第3章 鎖を切る

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声なんて出るわけがない。 息が詰まって肩をすくめた瞬間、ジャラ、と重苦しい音を立てて鎖が地面に落ちる。 「首輪はあとだ」 俺を繋いでいた鎖を白いのが切ってくれた。 「……」 首輪は今、どこにも繋がっていない。 たとえば、真っ直ぐ歩き出しても、途中でグンと首を引っ張られることはない。 俺の首輪から垂れ下がっていた鎖は繋がる先をなくして、ただ、ダラリとだらしなく揺れている。 「野獣がぁぁぁぁ!」 自分の鎖がどこにも繋がっていない不思議をじっと見つめていたら、人間の叫ぶ声が耳に飛び込んできて、ハッと顔を上げる。 人が何か叫んでた。 手にした重たい斧で俺達を叩き潰すため、大きく高く両手をあげる人間。 腹を丸見えにして、剣を持つ相手に切ってくれといわんばかりに。 人よりも「ぞんざい」に扱われる獣、禍々しい力を持っていようがそれは微々たるもので、逆らい抵抗できるほどの力じゃない。 そう思っていた人間は驚いた顔をしていた。 昼間、白い馬が欲しかったのに、ナイフを出されて驚いたみたいに。 「……すげぇ」 あっという間だった。 白い奴が動くと青白い光の筋が軌跡になって残る。 腰を落とし、相手の腹を切る剣の真っ直ぐで鋭い動き、どこまでも滑らかに動く白い奴、それが青い線になって空間に残る。 すぐ、ハラハラと光の線が解けて消えていく頃にはもうひとりの男の背後に回っていた。 人間が小さく呻いて、大きな荷物が落ちたみたいな音を立てて、その場に倒れこむ。 バサッ、ドサッ、とふたりが地面に転がり、そこに立っていたのは真っ白な獣一頭だけ。 大きな、大きな月の下、月よりも冷たく冴えた光を纏った獣が背中を伸ばし佇んでいる。その手には瞳と同じ黄金色の剣がある。俺が術で作った仮初の剣。 「どうする?」 その声は光みたいだった。 鋭すぎない真っ直ぐさで、闇夜の中にいても目を覚まさせてくれる。 「来るか? 黒いの」 「ど、どうするって……」 どうするもなにもねぇじゃん。
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