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主は助けに来るわけじゃない。
もし俺が万が一にも明日の朝まで生き延びていたとして、もうこの街を歩けるわけじゃねぇんだから、主も俺を連れて行くことはない。
人に逆らったんだ。
どうするって、ここから逃げる以外の道はない。
それなら、俺は――
「来いよ」
白い手がスッと俺へ差し出される。
「あぁ」
「来るのか?」
「あぁ!」
「ちゃんと考えたのか?」
「はぁ? おめぇが! 今! 来いって言ったじゃねぇかっ!」
ニヤニヤ笑って俺をからかっている。
手を差し伸べて、来いと言ったくせに、その手を取ろうとしたら、ひょいっとかわして、
いいのか?
本当にそれでいいのか?
と覗き込んでまで確かめようとする。
「そりゃそうだ。もうお前は自由なんだ。歩いてどこにでも行ける。俺についてこなくちゃいけないわけじゃない。主のところに行くことも、このままひとりで歩き出すことも、俺についていくこともできる。俺は妖魔だ。禍々しいこと極まりない妖魔。共にいると長生きはできねぇかもしれない」
「……」
「妖魔だからな。それでも、一緒に?」
どれも考えたんだ。
考えたけど、どれだって別にさして幸運とは思えねぇ。
それなら。
「自分で決めろよ」
それなら、俺は妖魔だろうが禍々しかろうが、背中を駆け抜けた説明のつかない何かを選ぶ。
今まで感じたことのない、冷たくて熱くて、どんな言葉も似合わないあの感覚を選ぶ。
「お前について行く」
この白い奴を見た時から、そして今も感じてる「この感じ」を選ぶ。
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