第3章 鎖を切る

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主は助けに来るわけじゃない。 もし俺が万が一にも明日の朝まで生き延びていたとして、もうこの街を歩けるわけじゃねぇんだから、主も俺を連れて行くことはない。 人に逆らったんだ。 どうするって、ここから逃げる以外の道はない。 それなら、俺は―― 「来いよ」 白い手がスッと俺へ差し出される。 「あぁ」 「来るのか?」 「あぁ!」 「ちゃんと考えたのか?」 「はぁ? おめぇが! 今! 来いって言ったじゃねぇかっ!」 ニヤニヤ笑って俺をからかっている。 手を差し伸べて、来いと言ったくせに、その手を取ろうとしたら、ひょいっとかわして、 いいのか? 本当にそれでいいのか? と覗き込んでまで確かめようとする。 「そりゃそうだ。もうお前は自由なんだ。歩いてどこにでも行ける。俺についてこなくちゃいけないわけじゃない。主のところに行くことも、このままひとりで歩き出すことも、俺についていくこともできる。俺は妖魔だ。禍々しいこと極まりない妖魔。共にいると長生きはできねぇかもしれない」 「……」 「妖魔だからな。それでも、一緒に?」 どれも考えたんだ。 考えたけど、どれだって別にさして幸運とは思えねぇ。 それなら。 「自分で決めろよ」 それなら、俺は妖魔だろうが禍々しかろうが、背中を駆け抜けた説明のつかない何かを選ぶ。 今まで感じたことのない、冷たくて熱くて、どんな言葉も似合わないあの感覚を選ぶ。 「お前について行く」 この白い奴を見た時から、そして今も感じてる「この感じ」を選ぶ。
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