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お梅がすやすやと寝息を立てていた。
わしはいつまでも寝付けず、縁側に出て月を眺めて居った。
「命を捨てる覚悟で凶行に及んだというに、命が惜しくなってしまうとはな」
まさか、堅気の女に夢中になるとは思いもせなんだ。
気に入った女を慰み者にしたことはあっても、心を奪われるなどなかった。
わしの目的は一つ。会津をこの京から追い出すことじゃ。
少しずつ内側から崩していくのだ。
そのうち、水戸の同志らも動き始めるであろう……。
わしはそのきっかけを作る捨石で良いと、思っておった。
「なのに、のう……」
お梅を残して死にたくはないと、そんな考えを抱く、女々しい己を認めたくはない。
す、と細い腕がわしの首に巻き付いた。
「なんだ、目が覚めたのか?」
「襖を開けてはるさかい、さぶかったんどす。早う寝間に来て、温めておくれやす」
わしの首筋に柔らかい唇を這わす。
「ここで良いわ」
わしらの情事を、月が一部始終ながめておった。
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