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「お梅、どこへ行っておった。この物騒な時に、独りで歩いて来たんか?」
だんさんの声が店先から聞こえてきた。
御所で、会津さんと毛利さん(長州)の兵が睨み合うてるって、さっきのお客が知らせてくれて、慌てて店を閉めようとしてたとこやった。
「すんません。お栄ちゃんとこにおりましたんえ」
お梅さんは嘘を言った。その嘘にだんさんは、騙されたふりをしたんや。
「ほうか。泊まるんはええけど、黙っておらへんなったさかい、お客も心配してたで」
二人の日常は、何事も無かったように、再び繰り返された。
御所の騒ぎは、一日で終わった。
その明くる日は雨やった。
朝、雨の中、毛利さんの兵が、己の持ち場やった堺町御門を離れ、お仲間の公卿さんらと共に、京を追放された。
その後しばらくは、色めき立った志士や残党の兵と、ミブロとの間で小競り合いがあったみたいで、瓦版を賑わせていた。
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