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文久元年、既に幕末の動乱が色濃い京やったけど、俺ら商人にしたらお武家さんらの権力争いみたいなもん。「物騒やなあ」て眉をしかめるものの、己には関係ないと高を括ってた頃やった。
当時十七やった俺は、西陣山名町の菱屋いう太物屋で奉公をしていた。
その年の春、その人は菱屋の旦那、太兵衛さんのお妾としてやって来たんや。
「お梅言うんや。仲ようしたってや」
一重の切れ長の目、色の白い日本人形みたいな清楚な若いおなごやった。
けど、彼女が微笑むと、お人形さんや無いのがすぐにわかった。
妖艶なその笑みに、何人の奉公人が気付いたやろか……。
「だんさんとおかみさんとの仲が、いよいよ悪うなったんやって」
「何でもここの親戚の娘で、芸者らしいで」
彼女の噂はまことしやかに囁かれ、大番頭さんですら興味本位な目で、彼女を見ていたっけ。
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