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「あんさん、なんて言うのん?」
「……藤吉。やから藤松と呼んで下さい」
「へえ、太閤さんの藤吉?」
「藤吉郎やない。ただの藤吉や」
「ちゃいますえ」
「へ?」
トン!
「うわ、」
息が止まった!
いきなり俺の前に膝まづき、俺の顔を覗き込んでいた。鼻と鼻がぶつかるかと思うた。
「あんな、ただの藤吉なんかおらへんえ。
あんさんは、ここに居るあんさんただ一人。あんさんは唯一無二の藤吉はんなんよ」
そない言うて、俺のほんの一寸前で、妖艶に微笑んだんや。
お梅さんが立ち去った後も、ぎゅうっと胃の腑を掴まれたみたいになって、しばらく息ができんかった。
多分、この時から俺は、お梅さんに惚れとったんやと思う。
何をしてても、つい彼女を目で追うてしまう己が居ったさかい……。
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