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僕は、よわむしなんだよ
小さな虫だって殺せないんだ
みんなが嫌うあの虫だって
ある夏の日
その日から
僕は虫と話すことができるようになったんだ
ビルの屋上の錆びた手摺にもたれて
北の空を見ていたよ
青い青い空だった
青い青い目をした蜻蛉が
錆びた手摺に掛けていた
僕の左肘にとまって言ったよ
「カナシマナイデ」
黒いアスファルト、逃げ水を追いかけて歩く
限りなく透明?
そんな、黒い黒い道だった
黒く黒く輝く翅の蝶々が
逃げるように、足早に歩く
僕の足元に舞い降りて言ったよ
「タノシカッタネ、ワスレナイ」
その日は、てんとう虫やだんご虫
いろんな虫達が
僕と話しをしにやって来たんだ
大切なものは
失ってから
その大切さに気づく
僕だって、失いたくはなかったよ
大切だってことぐらい
本当に本当に本当に
わかっていたよ
ただ
こんなにも
こんなにも、こんなにも大切だったって
失いたくなかったって
気づいていなかったんだね・・・・・・
もうすぐ、あれから
君が生きた年月と同じ年月が過ぎてゆくね
でも、
いまだに僕は虫達と話しをしているよ
僕は、よわむしなんだよ
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