生はまこと濁流に尽きる

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  はっと顔を上げると、 経営戦略部の浦川さんが 所在なさげに入り口から 覗き込んでいるのが見えた。 長い前髪を 上げもせずに 垂らしっぱなしの彼は、 いかにもお色気担当だ。 彼とも直接の面識は なかったけれど、 ここの責任者は今は私だ。 声をかけるのを ためらう後輩たちを尻目に、 立ち上がる。 「初めまして、浦川さん。 こちらになにかご用ですか?」 にこりと 板についた営業スマイルを 向けると、 浦川さんはあっと 目を見開いて軽く 指を鳴らした。 「あ! いたいた! 木枯さんってあんた?」 ──三太郎の ひとりのわりに、 桃さまとはえらい違いだ。 浦島太郎。 「はい、 木枯は私です」 「木と口が多い、 木枯杏ちゃん」 「……」 .
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