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よく響く
テノールを抑えて、
浦川さんは困ったように
肩をすくめる。
「私にですか?
どちらから……」
「桃」
きっぱりと
短く言い切った
浦川さんの顔から、
軽そうなサラリーマンの
面影が消えた。
「……瑞島さん、
ですか」
「そう。
あいつ、
自分で来ればいいのになあ。
ホント、
プライドの高い男だよ。
人目ばっか気にしやがってさあ」
言いながらも
浦川さんの声は
どこかやわらかい。
「それで、
なんでしょうか……」
「桃からは、一言。
“会いたい”」
「……」
なんだそれ。
リアクションを待つ
浦川さんに、
営業スマイルを
見せ続けるのが
苦痛になってきた。
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