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「…葉月さん……貴方はどうして僕に構う……僕が巽さんの息子だから? 巽さんが僕を傍に置いたから? 昔からです……貴方は僕がほんの子供の頃から僕を子供扱いせずに友人のように接してくれた。もし貴方がいなければ、僕は本当にヤクザのことしか知らない人間になっていたでしょう……貴方が僕を佐伯の家から連れ出してくれたから、僕は高校にも大学にも行ったし、我儘も覚えました……貴方は僕に巽さんに甘えたり我儘をいったりしなさいと言ったけど、僕は結局、一度だってそういうことはできなかった……でも不思議ですね───貴方には我儘が言えたんです……」
「そうか?」
「ええ」
「たとえば?」
「貴方が今日は寿司にしようかと訊くので、僕は寿司は嫌だと言ったことがあります」
「……それが我儘?」
「はい」
そんなものは我儘のうちに入らない、ただの希望だと葉月は思う。
「巽にはそういうことは言わないの?」
「言いませんよ。それに、巽さんは僕に聞いたりしません。今日は寿司だと断言します」
「そう」
「貴方はいつも僕に考える時間をくれました……それがとても助かりました」
「俺たちの関係を変えるためには時間が要るということか?」
「……分かりません……変えたいのかどうかも分からないのに…」
「変えたくない気持ちと、変えたい気持ちと、比率でいったらどっちが上だ?」
すると総は少し考え、葉月を見て悲しそうに笑った。
「分かりません───僕は自分がなにを望んでいるのか考えたことがありませんから。とにかく変わるのは怖いんです……変化は嫌だ……ろくなことが無い…」
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