<2>歩む速度

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 こんな風にじっくりと総の身体を見るのは初めてだと葉月は思う。傷があることを総はひどく気にしているようだったが、そんなに目立つわけじゃない。確かに傷痕はいくらか残っているけれど、もうかなり薄くなっているし、大きく引き攣れたりしているわけでもない。頑なに見せようとしないからなにも言ってやれなかったけれど、他人に気味悪がられたりするほどではない。こんなことならもっと早く言ってやれば良かった。半袖のシャツを着ても平気だって、温泉だって大丈夫って───誰かと裸で抱き合うことだって気にしなくていいって教えてやれば良かった。そうすれば総は、もっと早く、こんなアンバランスな状態になる前に、人と愛し合うことができたかもしれないのに。  葉月は手を伸ばし、棚を探ってコンドームを取り、俺も随分ご無沙汰だと思いながら性器につけた。本人は気づいていないけれど、アンバランスな状態なのは葉月も同じだ。なんせ、巽への気持ちを自覚してからは誰ともセックスしていない。 「───総……もう入れていいか?」 「…嫌」 「そうか、いいか」  葉月は全く反対のことを口にして、すっかり柔らかくなった総の尻に、痛いほど勃起した自分の分身を押し当てた。その瞬間、総の背中が波打ったように葉月には見えた。 「…駄目って……言って…るのに」  前後に擦りつけているうちにうっかり入ってしまいそうになる。かなり時間と手間をかけて指でぐいぐい拡げたので、総の粘膜は柔軟になっていて、侵入者を遮るだけの抵抗力は残ってない。しばらく経ったらまた慎ましくすぼまるだろうけれど今は無理だ。入ってくるものは拒まず受け入れてしまう。  生々しい感覚に身体を強張らせている総の、いつまでも続くわけがない緊張がふととけた瞬間を見計らって、葉月はゆっくり挿入した。 「……んんっ…はづ…嫌だって……い…」 「でももう入ってるぜ」 「…ぁ…ああ……あ」 「どうだ…なんてことねぇだろ───こんなの、別に特別なことじゃない…誰だってしてることだ───それこそ今は中坊や女子高生でもな…」  背中から全身を包み込むようにして葉月は総を抱きしめた。 「重い…はづ…重い」 「愛の重みだ」  不自然な体勢のまま葉月は総の顔を覗き込んだ。 「あ…嫌…顔…見ないで下さ…」  舌足らずになっているのだろうか、ちゃんと語尾まで聞き取れない。
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