<3>過去の澱

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 部屋を取らないという約束で、ようやく葉月は総と食事できることになった。部屋を取るということは、今の二人にとって、セックスするということを意味するからだ。たとえ葉月がただシャワーを使うためだけに部屋を取っていたとしても、総にとって単にそれだけでは済まなくなっている。身構えずにいられない。  一週間前の夜、葉月は力ずくで変化を起こした。ただ食事するだけだった関係を、性交込みのものに変えた。総にとっては強引に変えられた。  巽に引き取られた当時から総は変化を怖れる子供だった。環境の変化はいつだって総を振り回し、変えられた環境に馴染むために総はひどく努力しなければならなかった。総が変化を怖れていることに気づいたのは葉月だけだ。巽が政略結婚した時も、宗政が逝った時も、巽が数馬を選んだ時も、総は非常な努力でもって変化に耐えた。その努力があまりに完璧過ぎたせいで、総が抱えている恐怖に巽は気づかなかった。  でも、本当は、総自身も分かっている。変わらないものなんて無いということぐらい。平穏な日々は特に変化もなく過ぎるように感じるけれど、日々は確実に変化しながら過ぎていくのだ。だから総は心のどこかでは変わりたいと思っていた。変わらなければ成長することも進歩することもない。  あの夜から───葉月と総の関係が変わってからまだ七日しか経っていない。  たった七日、されど七日。七日もあれば冷静に考えられるようになる。自分たちがなにをしたのか、自分がなにをされたのか、自分が……。三日目の夜ぐらいから、総は何度も葉月との間にあったことを思い出した。最初はキスしただけだった。ズボンと下着を脱がされ、眼鏡も取られ、バスルームに入っていく葉月の背中を総は見ていた。待っている間に自分でシャツを脱いだ。傷痕が残る不気味な身体だ。いつのまにか葉月が戻ってきていて、綺麗だとかなんだとか言われて、キスされたり触られたり舐められたりした。あんなものまで口に咥えられた。尻に指を入れられ、拡げられ、かなり長い時間をかけて挿れられることに馴らされた。葉月の馴らし方が上手かったせいなのか、実際の挿入は想像以上に呆気なかった。挿れられるというのは、総が思っていたよりずっと簡単だった。簡単過ぎて拍子抜けしたぐらいだ。
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