回遊する贋者、或は檻の中の密林

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「あのさ。私だって、彼氏ぐらいいるんだけど……」  手渡したパンフレットをテーブルに放り投げると、早苗は顔をしかめた。 「うそ、いつから? どうして教えてくれなかったの」 「いちいち親に報告する年齢でもないでしょ」 「結婚の話は出てるの?」  自分が前のめりになっていることに気づき、慌てて背筋を正す。  顔をしかめて私を睨む娘の早苗は、再来月で30歳を迎える。しかし結婚どころか、未だに家を出る気配すらない。 「お互い仕事も忙しいし、そんなこと考えたことない」 「そんな……もうすぐ30よ。あなたも先方も、ちゃんと考えてる?」 「何それ。なんでお母さんに、そんなこと言われなきゃいけないの?」  夫に助勢を求めるが、他人事のような顔で新聞を読んでいる。
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