回遊する贋者、或は檻の中の密林

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「パパ、聞いてる?」 「……はいはい聞いてるよ」 「他人事みたいに黙ってないで、何とか言ってやってよ」  盾のように構えた新聞紙を下ろし、夫が億劫そうに口を開く。 「あのな、早苗。お父さんたちの時代にはクリスマスケーキと言って、25歳までに結婚できない女は……」 「それ、自分の妹に言えるの?」  言葉に詰まる父親を、早苗が鼻で笑う。  夫の妹……つまり私の小姑は未婚の母だ。しかし、その小姑が36歳で産んだ姪ですら、4年前に授かり婚を果たした今ではれっきとした二児の母をしている。 「午後からユキナと映画行ってくる。晩ご飯は外で食べてくるから」 「え? 彼氏とじゃなくて?」  娘はあからさまに冷めた目でちらりと私を一瞥した。流しに食器を運び、さっさと二階の自室に籠もってしまう。  婚活パーティーのパンフレットを拾い、大きなため息が漏れた。表紙には仲睦まじく寄り添い、微笑む男女が写っている。 「お付き合いしてる人がいるなんて、知らなかったわ」
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